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日本村100人の仲間たち The HOPE

  • 古刊

山口謠司

『日本村100人の仲間たち The HOPE』書評
吉田浩 著
松野実 画
辰巳出版

年が明けて2021年、昨年から終局をみないコロナウイルスの感染拡大により2度目の緊急事態宣言が発令された。
それは、人々がウィズコロナという大義の元、ようやくウイルスと共存していくことに慣れ始めた矢先だった。
多くの人々を不安の渦に巻き込む最中、ふと本著が書店で取り上げられているのを見て手に取った。興味深い内容が書かれていたので紹介しようと思う。
思い返せば、新型コロナウィルス感染拡大の恐怖にさらされてほぼ一年。
生活は一変した。
私が奉職する大学でも、2020年度は、一年間ZoomとYouTube、メールや大学のポータルサイトなどを使う遠隔授業を余儀なくされた。
対面で教えることが当たり前であったのが、いきなりオンラインに切り替わり、どうすればいいのか分からないと頭を抱える教員たちも多かったと聞く。
学生の方も、そうである。
対面であればこそ、空気を読んで教員に質問することもできることだってある。しかし、オンラインではそうした雰囲気もつかめない……こんなふうに新型コロナウィルス感染拡大で悪いところばかりを見ていくことは容易である。
なんでも、できないことは新型コロナのせいにしてしまえば、気も楽になる。
もちろん、「新型コロナウィルス感染拡大があってよかった」というつもりは微塵もないが、物事の見方を一転させてくれるいい機会になったということを考えずにはいられない。
自分のことで恐縮ではあるが、健康を取り戻す機会を作れたこと。
これまで、大学の授業や執筆、講演、テレビやラジオの出演、監修などに追われ、急に足が痛くて動けなくなったり、偏頭痛が起こったりなど身体は悲鳴を上げ始めていた。
 医者に行っても「疲労の蓄積」「年のせい」と言われ、痛み止めをもらってその場をやり過ごしてきたのだった。新型コロナウィルス感染拡大による遠隔授業などの措置がなかったとしたら、きっと私は、今、更なる身体的苦痛を抱えたまま、身体を駆使していたに違いない。
 医者が勧める検査、薬の服用、精神の安定のための瞑想やヨガなどを、この一年欠かさず行うことによって、私は、ようやく健康を取り戻すことができたのだった。
 さて、自身のことをあまりに長く書いてしまったが、本書を読んで思ったのは、まさに「視点」を替えることの必要性だった。

 本書の帯には「どんな災難がやってきても 村人たちは助け合ってきました」とある。
「助け合い」という言葉を見て、私はハッとした。ほとんど死語である。最近では「歳末助け合い運動」などというところだけで使われていただけで、「助け合い」という言葉を親身になって使ったことがなかったのではないか──
 しかし、すべては、繋がっている。
 本書の冒頭に出されている例をひとつ挙げよう。
一人の男の子がカゼを引いた。「すると、そのカゼが2人にうつり、4人にうつり、8人にうつり……」ということをねずみ算を使って、「世界で、感染者が100万人から200万人に増えるまで2週間もかかりませんでした」という。
 さて、それでは、感染拡大によって、「会社の残業がなくなり、パパの給料が減」ると、どうなるか?「銀座のクラブがいっせいに休業」すると、どうなるか?
 
互いが助け合うことを知らなければ、パンデミックが、人をパニックに陥れることになってしまう。
本書には、各国での罰金などにも触れられる。
 なんと「イタリア村ではカメを散歩させていた60歳のおばさんは、罰金400ユーロ(約4万7000円)を払いました」と。
 また、「フィリピン村のドゥテルテ村長は『外出するやつは撃ち殺すぞ』」と言ったとも記されている。
 見えない危機に直面した時、政治が力で制圧すれば、人々はさらなるパニックになって暴動を起こす。それは古典の伝えるところである。しかし、こうした教訓はなかなか活かされることはない。
 それでは、何もしなければいいのか──そんなことになれば、それはそれで大変なことになる。
 はたして、感染を拡大し世界を変えてしまった責任を、人は誰かに押しつけてしまおうとする。
 それぞれの国の首長にあるのか?中国にあるのか?アメリカにあるのか?蝙蝠にあるのか?

また本書には、日本村での報告も書かれる。
マスクを買えずに困っていたおばあさんを見た中学一年生の女の子が、「今までずっと貯めてきたお年玉8万円 を使って600枚のマスクを作り1枚1枚に手紙 を添えて地元 に寄付 した」ことや、「村のあちこちにタイガーマスクと名乗 る人が 現れ、108億円もの大金を寄付してくれた」、「ホテルを5000室も貸してくれた」等など。
政治ではなく、身近な人々が互いを、自分の持つ力で「助け合う」ことの、本当の意味を考えさせてくれる。
 そして、著者・吉田さんは問のである。
「あなたの人生で一番大切なものは何ですか?」と。
「お金? 健康? 家族? 宗教?」
 そして、「アメリカ村のハーバード大学」が、75年もの歳月を掛けて724人の男性を研究して得られた結果が、書かれている。
 この答えは、ぜひ、本書を一ページずつ読んで行って、知って欲しいと思う。
 自分にとって、本当に一番大切なものは何か?
 そのことを是非、この新型コロナウィルス感染拡大で、巣ごもりをしながら考えて欲しいと思う。
 自分の命は、決して孤立して存在しているのではない。家から町へ、町から国へ、国から世界へと全体と繋がっている。ひとりの男の子がひいたカゼが、全世界に広がって行くように。
 その「カゼ」を「助け合い」という言葉に置き換えることで、すべての危機は、乗り越えて行けるだろう。
 本書、巻末には詳細な「解説(時計データ・アンケート)」が付いている。
 この新型コロナウィルス感染拡大が収束してしまえば、人はまもなく、このことを忘れてしまうだろう。
 しかし、この「解説」を見れば、こうしたことが現実に起こったことだということがよみがえるに違いない。
 我々は、決して忘れてはいけない。現在起こっていることを。そして、大切なことは、責任を探すことではなく、「助け合い」が必要だということ、また自分にとって本当に一番大切なものは何かということだということを。