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マーガレット・マクラミン著  真壁広道 訳『誘惑する歴史』

  • 古刊

山口謠司

『誘惑する歴史』
マーガレット・マクラミン著
真壁広道 訳

Original Title: Dangerous games: the uses and abuses of history,
Modern Library, 2008.

単行本: 190ページ
出版社: えにし出版 (2014/12/23)
言語: 日本語
ISBN-10: 4908073074
ISBN-13: 978-4908073076
発売日: 2014/12/23

著者は、イギリス首相、ロイド・ジョージ(1863-1945)の曽孫である。
ロイド・ジョージと言えば、第一次世界大戦後のパリ講和会議に出席し、アメリカのウッドロウ・ウィルソン、フランスのクレマンソーなどとともに戦後処理を指導したということを思い起こすだろう。
マーガレット・マクミランは、その曾祖父が活躍したパリ講和会議を扱った『ピースメーカー 1919年パリ講和会議の群像(Peacemakers: The Paris Conference of 1919 and its attempt to end war)』(稲村美貴子訳 芙蓉書房出版2007)を書いて、カナダ総督賞、サムエルジョンソン賞を受賞した人でもある。
専門は、イギリスの近現代史。
さて、本書は、2008年に書かれたものなのであるが、「歴史」、とくに、自国の歴史というのは、みんなが気になるところ。各国で自国の歴史を検証するテレビ番組が最近よく作られているけれど、これはじつは、20世紀前半の社会現象とよく似ていて、危険なことなのかもしれないと警鐘を鳴らす一冊である。

 たとえば次のように記される。
「何十年にもわたりとりわけ活発な活動をしている文化省を持つフランスは、1980年(から10年間)を歴史的遺産年と宣言した。地方では、地方史における重要事項を改めて定め、形を整えた。その後、公のリストに載る文化遺産とモニュメントの数が倍増している。たとえば、木靴や栗林のようなものを専門に扱う新しい博物館がいくつも出現した。十年間の終わりにあたって、フランス政府は1989年、フランス革命200年記念を統括する特別委員会を立ち上げた」
 マクラミンが指摘するように、これは、2003年のジョージ・ブッシュの「アメリカの維持」という教書にも影響を与えているという。
「連邦政府は、その所有する歴史的財産を、国民共同体の活力及び経済的福祉に寄与し、アメリカ合衆国及びその基礎をなす諸価値の発展に対する広範な理解を醸成するとともに、省庁の任務を支援し得る資産とみなし管理する」
 
 そういえば、我が国でも、歴史番組は、みんな好きだし、自分の家の近くにある歴史的な建造物をユネスコの世界遺産や市、県、国の特定遺産にしようという活動も多く行われている。
 中国や韓国では……伝説として書物に書かれた帝王の墳墓の発見などを報じる番組が作られたりもしている。
 もしかしたら、じつは、これは、危険なナショナリズムなのかもしれないのである。
 歴史好きは決して悪いことではない。でも、「歴史好き」であればこそ、自分の関心が世界にどのような影響を与えているのかということも考えてみるべきである。
 
 最後に、本書を訳した真壁広道という方は、1957年生まれ、一橋大学社会学部社会学科卒業。都筑忠七門下でイギリス社会思想史を学び、現在、神奈川県の県立高校で世界史を担当する先生である。高校の先生をしながら、ヨーロッパ近現代史に関するじつに多くの訳書を出版しておられる。
『日英交流史第四巻』(東大出版会)
A.J.P テイラー『トラブルメイカーズ イギリス外交史に反対した人々』(法政大学出版局)など
 
 ひとつだけ辛口の批評をするなら、訳書を読んでいて、どうしても「原書ではどんなふうに書いてあるんだろう」と確かめたくなるところが多々あったことである。原書は、Kindle版でも配信されている。