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『非現実を生きる』

  • 古刊

大平信行

『非現実を生きる』
ヘンリー・ダーガー著・
小出 由紀子訳

単行本: 152ページ
出版社: 平凡社 (2013/12/16)
言語: 日本語
ISBN-10: 458263477X
ISBN-13: 978-4582634778
発売日: 2013/12/18

アメリカの女流作家メイ・サートンが、こんな言葉を残している。
「孤独と寂しさは違うし、独りで暮らしている人は、その両方を親しく知るようになるのよ」
……彼女は知っていたろうか?
ほぼ同時代を生き、彼女より一足先に生涯を終えた一人の男を。

男の名前は、ヘンリー・ダーガー。
作家……と呼んでいいものか定かではない。何せ、文筆業でお金を稼いだ人ではないのだから。
Wikipediaなどにその生涯が端的にまとめられているが、なにぶん謎が多い。ダーガーという名前の発音すら、正確なところは分からないほどだとか。
死後50年近く経過した今、日本でも個展が開かれるなど、アウトサイダーズ・アートというジャンルで一定の評価を受けているダーガー。しかし、大家とアパートの住人が彼の部屋の片付けに入り、その作品群を発見するまで、ダーガーはただの職を追われた孤独な老人に過ぎなかった。19歳から60年もの間、己の望む物語を紡ぎ続けたことなど、誰も知らなかった。

本著はダーガーが書き起こした、300枚の挿絵と1万5000ページ以上のテキストからなる、恐らく世界で一番長い長編小説『非現実の王国で』の解説書であり、展覧会の企画・コーディネイトを行ってきた小出由紀子氏、神戸市外国語大学教授の丹生谷貴志氏らによる人間ヘンリー・ダーガーの解説……いや、解釈であろう。
「ある特徴」を持った幼げな少女たちが、ときに勇ましく戦い、ときに悲しくも傷つけられる。どこか幼稚で、しかし残酷でもあり、また美しくもある。これは四の五の言わずに、とりあえず見て欲しいと、そう言いたくなる作品である。

最後に、60年もの長きに渡り、物語の世界に想いを寄せ続けたダーガーは「孤独」だったのか?「寂し」かったのか?
そんな思いを抱きながら、私はぼんやりと彼の絵を眺めていた……
すべては「非現実の王国で」。