山口謠司 plus LAUNCH BOOKS RADIO

『老人と海』

  • 古刊

神亜莉沙

『老人と海』
著者 アーネスト・ヘミングウェイ
訳者 福田恆存
発行所 新潮社
発行年 1996年6月15日(2003年5月新潮文庫)

「サラオとはスペイン語で最悪の事態を意味することばだ。」(本書P.5より)
本書は不漁が八十四日も続き、まさに「サラオ」の状況下にいる老人、サンチャゴをめぐる話である。
以前、サンチャゴの船には相棒である「少年」が同船していた。しかし、彼の両親がサンチャゴの不漁を目の当たりにし、少年は別の船へと乗ることになってしまう。
少年が不在の中、漁に出たサンチャゴは巨大カジキと三日間、戦うことになる。
その様子が描かれている中で印象に残っているのは、「あの子がいたらなあ」というサンチャゴの独り言。「あの子」とは、つまり少年のことである。このワードが本文で繰り返し使われている所に、「孤独感」というものが痛いほど私に伝わってくるのだ。
昨日まで傍らにいた相棒がいない哀しみ。それは、カジキと闘う辛い現状を思わず忘れてしまうほどのものであろう。
「カジキとの戦い」も見所だが、視点をがらりと変えて見ると、「孤独との戦い」でもあるのだということに気付かされる。
それが分かるサンチャゴの行動として、彼は海中の魚に語り掛けるのだ。読み進めていくと、がらんどうの船の中にもう1人誰かいるのではないかと錯覚が起きる。しかし、魚が人間に化けて乗り込んでしまったとしたら呉越同舟の状態になり、彼と魚の会話は成立しないだろう。つまり、「船上」と「海中」という境界線がはっきりと引かれているからこそ、会話は成立しているのではないかとさえ思えてくる。そして、魚が発する言葉はむろん、サンチャゴの耳にしか聞こえないどこか不思議なものなのだ。
サンチャゴは巨大カジキを捕まえ、無事に少年の元へと帰ることができるのか…。
読み終えると、本書を片手に、広大な海の世界を旅したくなります!