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村井理子『犬(きみ)がいるから』

  • 古刊

近藤徳

村井理子著
亜紀書房 2018.8.23
発行(ISBN978-4-7505-1557-1)
税込1620円

 私はとくに犬好きというわけではありません。道で犬に出会ったら、それが小さな犬でも反対側を歩いてしまいます。ましてや、真っ黒で大きなラブラドールレトリバーなんて!絶対に避けたい存在です。でも、この本を読んでいる間は、自分の中にある犬経験を総動員して、ここに描かれている幸せの何十分の一かでもイメージして味わいたいと思ったのでした。
 その幸せとは。
「大好きだーーー!」と、太字で叫ぶように思える存在があること。
 この本は、翻訳家・村井理子さんが、ラブラドールレトリバーのハリーを家族に迎えてからの1年間を綴ったものです(ウェブマガジンの書籍化)。村井さんいわく、ハリーは「最高のイケワン」で「一緒にいるだけで、本当に幸せ」で「ほとんど気絶レベルのかわいさ」。そう、ひとことで言うと「ハリーにメロメロ」です。たしかにハリーは、漆黒の体、賢げな目、佇まいのよい犬ですが(ハリー愛ゆえに写真もたくさん載っています)、でも、彼と暮らす人間には、実は大変な苦労があるのです。なにしろ、1歳で体重は40㎏近く、パワフルでやんちゃ。文字通り、村井家の人々はハリーに振り回されっぱなしです。いろいろと規格外のハリーが本能のままに動けば、傍目にはおもしろすぎる事件・騒動が巻き起こり・・・特に「天使が浜に舞い降りた」と「犬ぞりがしたかった」の章は、電車などで読むのはキケンです。
 でも、当然のことですが笑顔の日ばかりではありません。ハリーが成長するにつれて、村井さんの中では、ハリーの犬としての幸せについて思い悩むことが増えていきます。そしてそんなとき、村井さん自身に重い病気が発覚して入院を余儀なくされてしまうのです。大好きな村井さんの突然の不在に、動揺するハリー。言葉が通じない人間と動物、けれど離れていても共鳴し合うような村井さんとハリー。切なくて印象に残るエピソードです。
 そんな山も谷もある日々を通じて、ますます募っていく村井さんのハリー愛は、どこまでいくのでしょう。その後が気になる方はウェブマガジン「あき地」で読むことができます。