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ビートたけし『仁義なき映画論』

  • 古刊

大平信行

『仁義なき映画論』
ビートたけし著
文庫: 277ページ
出版社: 文藝春秋 (1996/04)
言語: 日本語
ISBN-10: 4167578026
ISBN-13: 978-4167578022
発売日: 1996/04

ほめるには勇気がいるらしい。言われてみれば、そうだ。あのこ、可愛いねとか何とかほめれば、それでその人の主義・趣向が分かってしまう。筆者も女の話になると随分呆れられたものだ。趣味が悪い?なんでぇ、オマエだって、あんな女が好きだとか、どうかしてるよ……って、ここで愚痴を言っても仕方がないが。

田舎の母ちゃんが昔集めたっていう「蔵書」の中から、この本を見つけた。著者はビートたけし。というよりは、北野武というべきかもしれない。
今では大分丸くなった武だが、この頃は毒舌三昧であって。黒澤明を年老いたなんて言ったかと思えば、『プリティー・ウーマン』やら、『ダイ・ハード2』やら、割に著名な作品にもお構い無しに言いたい放題。しかも1991年発売って……俺なんか生まれてねぇよ!バカヤロー!

冗談はさておき、中身であるが、意外に真面目に評価をしている。芸術とは所詮自分の感性に合うか合わないかであること、そして自身の視点がひねくれていること、そんな辺りをきっちり踏まえつつ、話を展開していく。途中、映画の話そっちのけで、アメリカと日本の差異やら、戦争やら、脱線するんだが、それはそれで興味深いから、映画の話しろよ!とも怒れない。まあ、当時の状況なんてしりゃしないから、分からない話は本当に分からないが。
何より意外なのが、『ゴースト』を褒める武。斜に構えた姿勢で展開してきたところから、ラブコメなんぞとバッサリ切り捨てそうなもんだと思ったが、予想外に大絶賛である。終いには、こことここは自分の映画よりいいなんて語り出す始末。

ただ、それもこれも、ほめるのは難しいて話に帰結するのだろう。『天と地と』をボロクソにこき下ろしたら、俺ならこうしたいと語り始める。話すことないんだが、聞かれたからには答えなきゃならねぇと。武のスタンスは一貫してぶれない。ほめるのは難しいと言いながら、下手に語ると人となりがバレてしまうと愚痴りながら、しかし、語られ続ける武の映画論。
昔、立川談志の落語は、落語を聞きに来るんじゃなくて、談志を聞きに来るんだと、そう語られたりしたそうだが、それに近いところがある。これは本を読むんじゃない、人間・北野武を読み解くんだ。そんな一冊。