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『万引き家族』

  • 古刊

神亜莉沙

『万引き家族』
著者 是枝裕和
発行所 宝島社
発行年 2018年6月11日

世間の人が「万引き」と呼んでいるこの犯罪が、ふたりの「仕事」だった。

上記の引用文の通り、本書の登場人物である治と祥太の「仕事」は万引きなのだ。
仕事=万引きというこの恐ろしい結び付きが、誤まった考えを脳にインプットさせてしまい、倫理に反する行動に人を誘ってしまうのだろう。
「仕事」と聞くと自分のため、はたまた家族を養うために一生懸命に働き、その報酬として賃金を得るイメージ。しかし、辞書で調べてみると「悪事をしたり、たくらんだりすること。」という意味合いもあるのだ。どうやら、人として絶対に踏み外してはならない道に背く行為も「仕事」の範疇に入るらしい。

人には良心と悪心、二つの心が存在する。お金のない乏しい環境の中で生活をしていると、良心が自分の知らないうちに消えかけてしまう。まるで色の変化しない壊れた信号機のように、良心と悪心の切り替えが麻痺してしまうのだ。

しかし治の妻である信代は、虐待を受けている「じゆり」という女の子を誘拐するのだが、母親のように優しく接する姿は心打たれるものがある。
実は信代も、母親から愛情を受けずに育った人間。そのため、「じゆり」の母親にも自分の母親と同じような憎悪の念が芽生え、誘拐という罪を犯してしまうのだ。
が、「この子(筆者注:じゆり)を抱きしめ、こうして抱きしめられると、自分を形作っている細胞のひとつひとつが、変質していくのを感じた。」と文中に書かれていることからも、信代の心情に変化が現れているのが分かる。だんだんと「じゆり」を愛おしく感じるようになっていく過程も読み進めていくと面白い。

一つ屋根の下で暮らす血の繋がっていない「家族」。外で悪事を働いて帰ってくる家族の唯一の心休まる居場所は、どこにも変え難い、「高層マンションに囲まれた平家の一軒家」なのかもしれません。