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オマル・ハイヤーム『ルバーイヤート』

  • 古刊

大平信行

『ルバーイヤート』
単行本: 195ページ
出版社: 平凡社 (2009/9/1)
言語: 日本語
ISBN-10: 458276679X
ISBN-13: 978-4582766790
発売日: 2009/9/1

少し前、知人に「おすすめの本は?」と聞かれたことがあった。そういうのは、そもそも相手の好きなジャンルが分からないと、話にならない。当然、聞き返す訳だが、返ってきた答えがまさかの詩集で、すっかり返す言葉を失ってしまった。
筆者はそれまで、詩集というものを手に取ったことが(少なくとも意識しては)なかった。明確な理由はない。ただ、どうにも好きになれなかった。カラオケで、クサいラブソングを熱唱する奴を、どこか冷めた目で見てしまうような、そういう、うすら寒さを感じてしまうから。
……要するに食わず嫌いだった。

この『ルバーイヤート』にしてもそう。
高校世界史が中世イスラーム世界の隆盛を語る際に出てきた重要タームのひとつ。
知らない訳ではない。ただ、手に取ったことがなかった。見ようとしてこなかった。探そうともしなかった。
ただ人にすすめられたから、半ば怖いもの見たさに手に取った。失望する準備はしていた。

結論から言うと、読んで正解だった。
ウマル・ハイヤーム、イスラーム世界の全盛期、他の多くの学者がそうであったように、彼もまた多分野で功績名高い人物。
そんな彼だからこそ、気付いてしまった、イスラームの教えと解離する現実。
自分が生まれたことの意味は?地獄があると誰が証明した?神は何故人に滅びの運命を強いたのか?
ハイヤームの疑問は、およそ宗教色の濃い(という印象を持ちがち)なイスラーム世界よりも、むしろ無宗教的な現代人の葛藤に近い。何か哲学めいた逡巡が繰り返されている。
ただ、そう嘆くばかりではなく、生きる楽しみ──酒への愛を語る詩でもある。ムスリムは呑めない筈なのだが、それは置いておき。人生は苦しいが、ひとまず今は酒を呑もうと。合間に小難しい思想を語っているのに、突然あの酒が~、この酒が~と語り出すのが面白い。漫才・コントのオチみたいにジワジワ効いてくる。11世紀から現代まで語り継がれるだけはある。

『ルバーイヤート』の訳は様々出ており、何なら青空文庫という形でネットにも掲載されているが、筆者としては岡田恵美子氏が訳した平凡社のものをおすすめする。訳としての良し悪し以上に、一頁につき一句の形式が見やすく、また解説つきで分かりやすい。
晩酌のお供におすすめな一冊となっている。異国情緒溢れる詩を口ずさみながら、呑む酒もまた格別であろう。
……まあ、私は下戸なんだが。