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『コンビニ人間』

  • 古刊

神亜莉沙

『コンビニ人間』
著者 村田 沙耶香
出版社 文春文庫
単行本発行年 2016年7月30日
文庫化:2018年9月4日

コンビニ…当たり前のように私たちの傍らにあり便利だが、そこで働くことに羨望を抱く者は恐らくいないのではなかろうか。

本書は、コンビニが無ければ生きる力を見出せない女性が主人公である。
彼女は36歳でありながら、コンビニでアルバイトを大学時代から18年間続けていて、しかも独身。
周りの人には自分の現状を上手く誤魔化しながら、代わり映えのない日々を過ごしている。

本書より
「やっと地下鉄の標識を見つけてほっと走り寄った先で、真っ白なオフィスビルの一階が透明の水槽のようになっているのを発見した。」

上記の引用文は、コンビニを「水槽」に喩えた文章である。
「水槽」というワードを目にすると、我が家で飼育している金魚を思い出す。狭い水槽の中で四六時中、ぼんやり動き回る姿と、狭いコンビニの中で音に耳を傾けながら機敏に働く彼女の姿は、どこか酷似している。
まさに、金魚も彼女も「井の中の蛙大海を知らず」の状態なのだ。
彼女の目にはコンビ二しか映らず、閉ざされた空間の中で自分らしく生きている。しかし、それを彼女は「普通」と感じていることが私からみると不思議に思えて仕方がない。

ある時、ゼミの先生が「善」とは何か?ということを私たちに問いかけたことがある。

「善」と「悪」の境界線がぼんやりと明確でないように「普通」という概念も人それぞれ全く違う。
まさに、黒でも白でもないグレーゾーンである「普通」を決めるのは、他の誰でもなく自分自信の価値観であるのではないかとさえ思えてくる。
本書を読み、改めて「普通」とは何かを考えさせられた。

主人公、古倉恵子にとってコンビニ=「アイデンティティ」なのだと思う。所謂、自分が自分であることを証明できる場所なのではなかろうか。

コンビニに行った際は本書を思い出しながら、今までとは異なった視点で「音」や「商品の配置」などに是非、注目していただきたい。
あなたが毎朝、眠い目をこすりながら何気なく通うコンビニには、もしかすると「コンビニ人間」が潜んでいるかもしれませんよ。

第155回、芥川賞受賞作。